伊勢物語翻刻 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻刻を行います

①河野美術館蔵三条西実隆筆本について

f:id:nobinyanmikeko:20170227171502j:plainf:id:nobinyanmikeko:20170227171209j:plain河野美術館蔵三条西実隆筆本は愛媛県今治市今治市河野美術館(旧称河野信一記念文化館https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E6%B2%BB%E5%B8%82%E6%B2%B3%E9%87%8E%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8)が所蔵する伊勢物語の写本。

翻刻に用いるのは1970年に愛媛大学古典叢刊1として刊行された写真複製本。本のサイズは縦18.2cm横13.0cm、影印部分のサイズは縦13.0cm横8.7cm。原本のサイズは縦26.5cm横17.8cmとのことなので縦横ともに1/2弱の縮小版ということになる。サイズは縮小されているが写真は見やすい。

解説の伊井春樹氏によると、この本は三条西実隆が定家筆天福本の前所有者だった蜷川(宮道)親孝の所望によって明応6年(1497年)に定家筆天福本を写して親孝に与えた本とのことで、学習院大学蔵の伝定家筆本は大永3年〜大永6年(1523年〜1526年)頃(by池田亀鑑博士)に今川氏親に定家筆天福本を譲る時に自分が見る本として手許に置いておくために書写した本と考えられるので河野美術館本の方が20年余り早く書かれた本ということになる。書体も学習院本より若々しく勢いがある。
行の切り方は学習院本とは違っていて、本の形態が学習院本より縦長なので学習院本より一行の字数が多い。ただ学習院本と冷泉為和筆本とが行の切り方まで一致するのを考えると定家筆天福本の行の切り方は学習院本・冷泉為和筆本と同じだったが河野美術館本は定家筆天福本とは違う切り方をしていると考えられる。

学習院本との本文の異同は次の四箇所。
☆80段……河野美術館本『あめそほふるに』
     学習院大蔵本『その日あめそほふるに』
☆86段……河野美術館本『よみてやれりける』
     学習院大蔵本『よみてやれりけり』
☆101段……河野美術館本『人をおほみ』
     学習院大蔵本『人をほみ』
☆107段……河野美術館本『わかけれは』
     学習院大蔵本『[また]わかけれは』

集付けの異同は無し。

行間勘物の異同は次の三箇所。
☆1段……河野美術館本『八月薨』
    学習院大蔵本『八月[卄五日]薨』
☆39段……河野美術館本『橋舩子』
     学習院大蔵本『橘舩子』
☆78段……河野美術館本『(無し)』
     学習院大蔵本『右大將依佐監右馬頭相伴歟他本也』

校異の書込みは河野美術館蔵実隆筆本は次の七段九箇所。

   或本しりほしの
☆9段…… しほしりの

   [古今]カスカノ
☆12段……  むさしの

      わ一本  ね
☆14段……くりはらのあれはの松の

   [古今]ゆきかへり
☆19段……  あまくもの

     一本なみた    らし
☆26段……袖にみなとのさはく哉

          一説よひと
☆69段……ゆめうつゝとはこよひさためよ

   [拾遺万葉]ひさき
☆116段……  はまひさし

この七段九箇所の校異の書込みは冷泉為和筆本と全く同じなので定家筆天福本に既にあったものと考えられる。学習院大蔵本はこの他に二十箇所以上の校異の書込みがあるがそれらの詳細は細川文庫本の所で述べたい。


また河野美術館蔵実隆筆本には濁点が次の7つの段14字に付されている。これはいつ誰が濁点を付したのかは不明。(翻刻文では濁点は省略)

☆4段…………3丁表⑥おほぎさいの宮
☆78段……48丁裏⑤ぜんじのみこ
☆81段……50丁裏④左のおほいまうちぎみ
☆83段……54丁裏⑧ひさしくさぶらひて
☆85段……56丁表②ぞくなるぜんじなる
☆85段……56丁表③事だつとて
☆85段……56丁表⑤(こほすか)こどふりて
☆85段……56丁裏①御ぞぬきて
☆87段……57丁裏⑦わらうだの
☆87段……57丁裏⑨せうがうし
☆103段…66丁表⑧じちよう(にて)

※85段の『こど』は文脈から言えば『こぼすがごとふりて』となるべき所だが、濁点は『と』の横に付いている。
※87段の『せうがうし』は通常『せうかうじ』と読まれるが、濁点は『か』の横に付いている。
※78段の『ぜんじ』だけが左側に点が付いていて、しかも『ん』にも点が一つ付いているから、これは声点として付けられたもので他の濁点とは別人によって付されたものと思われる。

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はじめに
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2016/09/23/233024
宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本について
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/03/23/151026
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本について
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/14/030719
伝青蓮院尊鎮親王筆本について
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/05/05/032017
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本について
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/08/06/161433