①河野美術館蔵実隆筆本・第八十二段《㔺中にたえてさくらのなかりせは》
【河野美術館蔵実隆筆本】51丁裏~53丁裏
惟喬 文德第一母従五位上紀静子名虎女
四品号小野宮
⑤むかしこれたかのみこと申すみこおはし
⑥ましけり山さきのあなたにみなせといふ
⑦所に宮ありけり年ことのさくらの花さかり
⑧にはその宮へなむおはしましけるその
⑨時右のむまのかみなりける人をつねにゐて
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①おはしましけり時㔺へてひさしくなり
②にけれはその人の名わすれにけりかりは
③ねむころにもせてさけをのみのみつゝ
④やまとうたにかゝれりけりいまかりするかた
⑤のゝなきさの家そのゐんのさくらことに
⑥おもしろしその木のもとにおりゐて枝
⑦をゝりてかさしにさしてかみなかしも
⑧みな哥よみけりうまのかみなりける人の
⑨よめる
[古今]
⑩ 㔺中にたえてさくらのなかりせは
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① はるの心はのとけからまし
②となむよみたりける又人のうた
③ ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
④ うき㔺になにかひさしかるへき
⑤とてその木のもとはたちてかへるに日く
⑥れになりぬ御ともなる人さけをもたせて
⑦野よりいてきたりこのさけをのみてむ
⑧とてよき所をもとめゆくにあまの河といふ
⑨ところにいたりぬみこにむまのかみおほみ
⑩きまいるみこのゝたまひけるかた野を
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①かりてあまの河のほとりにいたるを題に
②てうたよみてさか月はさせとのたまうけ
③れはかのむまのかみよみてたてまつり
④ける
[古今]
⑤ かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑥ あまのかはらに我はきにけり
⑦みこうたを返ゝすしたまうて返しえし
⑧たまはすきのありつね御ともにつかうまつ
⑨れりそれか返し
[古今]
⑩ ひとゝせにひとたひきます君まては
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① やとかす人もあらしとそ思
②かへりて宮にいらせ給ぬ夜ふくるまてさ
③けのみ物かたりしてあるしのみこゑひて
④いりたまひなむとす十一日の月もかくれなむ
⑤とすれはかのむまのかみのよめる
[古今]
⑥ あかなくにまたきも月のかくるゝか
⑦ 山のはにけていれすもあらなん
⑧みこにかはりたてまつりてきのありつね
[後撰]
[上野岑雄]
⑨ をしなへて峯もたひらになりなゝむ
⑩ 山のはなくは月もいらしを
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【学習院大学蔵伝定家筆本】59丁裏〜62丁裏
惟喬 文德第一母従五位上紀静子名虎女
四品号小野宮
⑨むかしこれたかのみこと申すみこ
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①おはしましけり山さきのあなたに
②みなせといふ所に宮ありけり年
③ことのさくらの花さかりにはその
④宮ヘなむおはしましけるその時
⑤右のむまのかみなりける人をつねに
⑥ゐておはしましけり時㔺へてひさ
⑦しくなりにけれはその人の名わ
⑧すれにけりかりはねむころに
⑨もせてさけをのみのみつゝやまと
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①うたにかゝれりけりいまかりする
②かたのゝなきさの家そのゐんの
③さくらことにおもしろしその木の
④もとにおりゐて枝をゝりてかさし
⑤にさしてかみなかしもみな哥よみ
⑥けりうまのかみなりける人のよめる
[古今]
⑦ 㔺中にたえてさくらのなかりせは
⑧ はるの心はのとけからまし
⑨となむよみたりける又人のうた
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① ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
② うき㔺になにかひさしかるへき
③とてその木のもとはたちてかへるに
④日くれになりぬ御ともなる人さ
⑤けをもたせて野よりいてきたり
⑥このさけをのみてむとてよき所を
⑦もとめゆくにあまの河といふところ
⑧にいたりぬみこにむまのかみおほ
⑨みきまいるみこのゝたまひける
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①かた野をかりてあまの河のほとりにい
②たるを題にてうたよみてさか月
③はさせとのたまうけれはかのむま
④のかみよみてたてまつりける
[古今]
⑤ かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑥ あまのかはらに我はきにけり
⑦みこうたを返ゝすしたまうて返
⑧しえしたまはすきのありつね御
⑨ともにつかうまつれりそれか返し
[古今]
⑩ ひとゝせにひとたひきます君まては
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① やとかす人もあらしとそ思
②かへりて宮にいらせ給ぬ夜ふくるま
③てさけのみ物かたりしてあるしの
④みこゑひていりたまひなむとす
⑤十一日の月もかくれなむとすれはかの
⑥むまのかみのよめる
[古今]
⑦ あかなくにまたきも月のかくるゝか
⑧ 山のはにけていれすもあらなん
⑨みこにかはりたてまつりてきのありつね
[後撰]
[上野岑雄]
⑩ をしなへて峯もたひらになりなゝむ
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① 山のはなくは月もいらしを
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【静嘉堂文庫本】P113~118
惟喬 文德第一 母従五位上紀静子 名虎女
四品号小野宮
⑥むかしこれたかのみことと申すみこおはしまし
⑦けり山さきのあなたにみなせといふ所に
⑧宮ありけり年ことのさくらの花さかりには
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①その宮へなむおはしましけるその時みきの
②むまのかみなりける人をつねにゐておは
③しましけり時よへてひさしくなりにけれ
④はその人の名わすれにけりかりはねむ
⑤ころにもせてさけをのみのみつゝやまと
⑥うたにかゝれりけりいまかりするかたのゝ
⑦なきさのいへそのゐんのさくらことにおも
⑧しろしその木のもとにおりゐてえたを
⑨おりてかさしにさしてかみなかしもみな
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①うたよみけりうまのかみなりける人のよめる
② 㔺中にたえてさくらのなかりせは
③ 春のこゝろはのとけからまし
④となむよみたりける又人のうた
⑤ ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
⑥ うき㔺になにかひさしかるへき
⑦とてその木のもとはたちてかへるに日くれに
⑧なりぬ御ともなる人さけをもたせて野
⑨よりいてきたりこのさけをのみてむとてよき
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①ところをもとめゆくにあまのかはといふ所
②にいたりぬみこにむまのかみおほみきま
③いるみこのゝたまひけるかたのをかりて
④あまのかはのほとりにいたるをたいにて
⑤うたよみてさかつきはさせとのたまう
⑥けれはかのむまのかみよみてたてまつりける
⑦ かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑧ あまのかはらにわれはきにけり
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①みこ哥を返ゝすしたまうて返しえした
②まはすきのありつね御ともにつかうまつれ
③りそれか返し
④ ひとゝせにひとたひきますきみまては
⑤ やとかす人もあらしとそ思
⑥かへりて宮にいらせたまひぬ夜ふくるまて
⑦さけのみものかたりしてあるしのみこゑひて
⑧いりたまひなむとす十一日の月もかくれなむ
⑨とすれはかのむまのかみのよめる
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① あかなくにまたきも月のかくるゝか
② 山のはにけていれすもあらなむ
③みこにかはりたてまつりてきのありつね
④ をしなへてみねもたひらになりなゝむ
⑤ 山のはなくは月もいらしを
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《異同㈠》無し
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《異同㈡》無し
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《異同㈢》
A.河野美術館本52丁表⑥……枝をゝりて
学習院大蔵本60丁裏④……枝をゝりて
静嘉堂文庫本P114⑧………えたをおりて
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《備考》
★最後の二つの歌に出て来る『山のは』は学習院大蔵本の小林茂美氏の翻刻では業平の歌は『山の葉』、有常の歌は『山のは』となっている。(池田亀鑑「伊勢物語に就きての研究 校本篇」はどちらも『山のは』)。
ここは『葉』が漢字として使われているのか仮名として使われているのか微妙なところだが、二つの『は』の間には一方を漢字、一方を仮名とするほどの大きな字体の違いはなく、一方を漢字と取るなら他方も漢字、一方を仮名と取るなら他方も仮名と取るべきでは無いだろうか。
文脈から言って『葉』の意味は無いので私は両方仮名と取った。
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宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第82段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/04/192058
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第82段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/29/070754
伝青蓮院尊鎮親王筆本第82段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/06/21/215853
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第82段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/10/26/220304