④伝青蓮院尊鎮親王筆本・第八十二段《㔺中にたえてさくらのなかりせは》
【伝尊鎮親王筆本】P99~104
惟喬文德第一母従五位上紀静子名虎女四品号小野宮
⑨むかしこれたかのみこと申すみこおはしましけり山
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①さきのあなたにみなせといふ所に宮ありけり年こ
②とのさくらの花さかりにはその宮へなむおはしましける
③その時みきのむまのかみなりける人をつねにゐてお
④はしましけり時よへてひさしくなりにけれはその人
⑤の名わすれにけりかりはねむころにもせてさけをの
⑥みのみつゝやまとうたにかゝれりけりいまかりするかた
⑦のゝなきさのいへそのゐんのさくらことにおもしろし
⑧その木のもとにおりゐてえたをおりてかさしにさし
⑨てかみなかしもみなうたよみけりうまのかみなりける
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①人のよめる
② 㔺中にたえてさくらのなかりせは
③ はるのこゝろはのとけからまし
④となむよみたりける又人のうた
⑤ ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
⑥ うき世になにかひさしかるへき
⑦とてその木のもとはたちてかへるに日くれになりぬ
⑧御ともなる人さけをもたせて野よりいてきたりこの
⑨さけをのみてむとてよきところをもとめゆくにあ
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①まのかはといふ所にいたりぬみこにむまのかみおほみ
②きまいるみこのゝたまひけるかたのをかりてあま
③のかはのほとりにいたるをたいにてうたよみてさか
④つきはさせとのたまうけれはかのむまのかみよみ
⑤てたてまつりける
⑥ かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑦ あまのかはらにわれはきにけり
⑧みこ哥を返々すしたまうて返しえしたまはす
⑨きのありつね御ともにつかうまつれりそれか返し
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① ひとゝせにひとたひきます君まては
② やとかす人もあらしとそ思ふ
③かへりて宮にいらせたまひぬ夜ふくるまてさけ
④のみものかたりしてあるしのみこゑひていりたまひ
⑤なむとす十一日の月もかくれなむとすれはかのむま
⑥のかみのよめる
⑦ あかなくにまたきも月のかくるゝか
⑧ 山のはにけていれすもあらなむ
⑨みこにかはりたてまつりてきのありつね
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① をしなへて峯もたひらになりなゝむ
② 山のはなくは月もいらしを
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【学習院大学蔵伝定家筆本】59丁裏〜62丁裏
惟喬 文德第一母従五位上紀静子名虎女
四品号小野宮
⑨むかしこれたかのみこと申すみこ
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①おはしましけり山さきのあなたに
②みなせといふ所に宮ありけり年
③ことのさくらの花さかりにはその
④宮ヘなむおはしましけるその時
⑤右のむまのかみなりける人をつねに
⑥ゐておはしましけり時㔺へてひさ
⑦しくなりにけれはその人の名わ
⑧すれにけりかりはねむころに
⑨もせてさけをのみのみつゝやまと
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①うたにかゝれりけりいまかりする
②かたのゝなきさの家そのゐんの
③さくらことにおもしろしその木の
④もとにおりゐて枝をゝりてかさし
⑤にさしてかみなかしもみな哥よみ
⑥けりうまのかみなりける人のよめる
[古今]
⑦ 㔺中にたえてさくらのなかりせは
⑧ はるの心はのとけからまし
⑨となむよみたりける又人のうた
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① ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
② うき㔺になにかひさしかるへき
③とてその木のもとはたちてかへるに
④日くれになりぬ御ともなる人さ
⑤けをもたせて野よりいてきたり
⑥このさけをのみてむとてよき所を
⑦もとめゆくにあまの河といふところ
⑧にいたりぬみこにむまのかみおほ
⑨みきまいるみこのゝたまひける
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①かた野をかりてあまの河のほとりにい
②たるを題にてうたよみてさか月
③はさせとのたまうけれはかのむま
④のかみよみてたてまつりける
[古今]
⑤ かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑥ あまのかはらに我はきにけり
⑦みこうたを返ゝすしたまうて返
⑧しえしたまはすきのありつね御
⑨ともにつかうまつれりそれか返し
[古今]
⑩ ひとゝせにひとたひきます君まては
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① やとかす人もあらしとそ思
②かへりて宮にいらせ給ぬ夜ふくるま
③てさけのみ物かたりしてあるしの
④みこゑひていりたまひなむとす
⑤十一日の月もかくれなむとすれはかの
⑥むまのかみのよめる
[古今]
⑦ あかなくにまたきも月のかくるゝか
⑧ 山のはにけていれすもあらなん
⑨みこにかはりたてまつりてきのありつね
[後撰]
[上野岑雄]
⑩ をしなへて峯もたひらになりなゝむ
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① 山のはなくは月もいらしを
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【静嘉堂文庫本】P113~118
惟喬 文德第一 母従五位上紀静子 名虎女
四品号小野宮
⑥むかしこれたかのみことと申すみこおはしまし
⑦けり山さきのあなたにみなせといふ所に
⑧宮ありけり年ことのさくらの花さかりには
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①その宮へなむおはしましけるその時みきの
②むまのかみなりける人をつねにゐておは
③しましけり時よへてひさしくなりにけれ
④はその人の名わすれにけりかりはねむ
⑤ころにもせてさけをのみのみつゝやまと
⑥うたにかゝれりけりいまかりするかたのゝ
⑦なきさのいへそのゐんのさくらことにおも
⑧しろしその木のもとにおりゐてえたを
⑨おりてかさしにさしてかみなかしもみな
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①うたよみけりうまのかみなりける人のよめる
② 㔺中にたえてさくらのなかりせは
③ 春のこゝろはのとけからまし
④となむよみたりける又人のうた
⑤ ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
⑥ うき㔺になにかひさしかるへき
⑦とてその木のもとはたちてかへるに日くれに
⑧なりぬ御ともなる人さけをもたせて野
⑨よりいてきたりこのさけをのみてむとてよき
_____________________
①ところをもとめゆくにあまのかはといふ所
②にいたりぬみこにむまのかみおほみきま
③いるみこのゝたまひけるかたのをかりて
④あまのかはのほとりにいたるをたいにて
⑤うたよみてさかつきはさせとのたまう
⑥けれはかのむまのかみよみてたてまつりける
⑦ かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑧ あまのかはらにわれはきにけり
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①みこ哥を返ゝすしたまうて返しえした
②まはすきのありつね御ともにつかうまつれ
③りそれか返し
④ ひとゝせにひとたひきますきみまては
⑤ やとかす人もあらしとそ思
⑥かへりて宮にいらせたまひぬ夜ふくるまて
⑦さけのみものかたりしてあるしのみこゑひて
⑧いりたまひなむとす十一日の月もかくれなむ
⑨とすれはかのむまのかみのよめる
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① あかなくにまたきも月のかくるゝか
② 山のはにけていれすもあらなむ
③みこにかはりたてまつりてきのありつね
④ をしなへてみねもたひらになりなゝむ
⑤ 山のはなくは月もいらしを
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《異同㈠》無し
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《異同㈡》無し
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《異同㈢》
A.尊鎮親王筆本P100⑧………えたをおりて
学習院大蔵本60丁裏④……枝をゝりて
静嘉堂文庫本P114⑧………えたをおりて
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河野美術館蔵三条西実隆筆本第82段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2016/10/29/165541
宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第82段
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九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第82段
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九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第82段
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