伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

③九州大学図書館蔵伝実隆筆細川文庫本・第八十二段《世中にたえてさくらのなかりせは》

【九大蔵伝実隆筆細川文庫本】P63A~65B
惟喬文德第一母従五位上紀静子名虎女四品号小野宮
②むかしこれたかのみこと申すみこおはしまし
③けり山さきのあなたにみなせといふ所に宮あり
④けり年ことのさくらの花さかりにはその宮へな
⑤んおはしましけるその時右のむまのかみなり
⑥ける人をつねにゐておはしましけり時世へ
⑦てひさしくなりにけれはその人の名わす
⑧れにけりかりはねんころにもせてさけを
_____________________
①のみのみつゝやまとうたにかゝれりけりいま
②かりするかたのゝなきさの家そのゐんのさくら
③ことにおもしろしその木のもとにおりゐ
④て枝をゝりてかさしにさしてかみなか
⑤しもみな哥よみけりうまのかみなりける
⑥人のよめる
[古今]
⑦  世中にたえてさくらのなかりせは
⑧  はるの心はのとけからまし
_____________________
①となんよみたりける又人のうた
②  ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
③  うき世になにか久しかるへき
④とてその木のもとはたちてかへるに日くれに
⑤なりぬ御ともなる人さけをもたせて野より
⑥いてきたりこのさけをのみてんとてよき
⑦所をもとめゆくにあまの河といふ所に
⑧いたりぬみこにむまのかみおほみきまいる
_____________________
①みこのゝたまひけるかた野をかりてあまの
②河のほとりにいたるを題にてうたよみて
③さか月はさせとのたまうけれはかのむま
④のかみよみてたてまつりける
[古今]
⑤  かりくらしたなはたつめにやとからん
⑥  あまのかはらに我はきにけり
⑦みこうたを返\/すしたまうて返しえし
⑧たまはすきのありつね御ともにつかうまつれ
_____________________
①りそれか返し
[古今]
②  一とせにひとたひきます君まては
③  やとかす人もあらしとそ思
④かへりて宮にいらせ給ぬ夜ふくるまてさけ
⑤のみ物かたりしてあるしのみこゑひてい
⑥りたまひなんとす十一日の月もかくれなん
⑦とすれはかのむまのかみのよめる
[古今]
⑧  あかなくにまたきも月のかくるゝか
_____________________
①  山のはにけていれすもあらなん
②みこにかはりたてまつりてきのありつね
[後撰]
[上野岑雄]
③  をしなへて峯もたひらになりなゝん
④  山のはなくは月もいらしを

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学習院大学蔵伝定家筆本】59丁裏〜62丁裏
惟喬 文德第一母従五位上紀静子名虎女
四品号小野宮
⑨むかしこれたかのみこと申すみこ
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①おはしましけり山さきのあなたに
②みなせといふ所に宮ありけり年
③ことのさくらの花さかりにはその
④宮ヘなむおはしましけるその時
⑤右のむまのかみなりける人をつねに
⑥ゐておはしましけり時㔺へてひさ
⑦しくなりにけれはその人の名わ
⑧すれにけりかりはねむころに
⑨もせてさけをのみのみつゝやまと
_____________________
①うたにかゝれりけりいまかりする
②かたのゝなきさの家そのゐんの
③さくらことにおもしろしその木の
④もとにおりゐて枝をゝりてかさし
⑤にさしてかみなかしもみな哥よみ
⑥けりうまのかみなりける人のよめる
[古今]
⑦  㔺中にたえてさくらのなかりせは
⑧  はるの心はのとけからまし
⑨となむよみたりける又人のうた
_____________________
①  ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
②  うき㔺になにかひさしかるへき
③とてその木のもとはたちてかへるに
④日くれになりぬ御ともなる人さ
⑤けをもたせて野よりいてきたり
⑥このさけをのみてむとてよき所を
⑦もとめゆくにあまの河といふところ
⑧にいたりぬみこにむまのかみおほ
⑨みきまいるみこのゝたまひける
_____________________
①かた野をかりてあまの河のほとりにい
②たるを題にてうたよみてさか月
③はさせとのたまうけれはかのむま
④のかみよみてたてまつりける
[古今]
⑤  かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑥  あまのかはらに我はきにけり
⑦みこうたを返ゝすしたまうて返
⑧しえしたまはすきのありつね御
⑨ともにつかうまつれりそれか返し
[古今]
⑩  ひとゝせにひとたひきます君まては
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①  やとかす人もあらしとそ思
②かへりて宮にいらせ給ぬ夜ふくるま
③てさけのみ物かたりしてあるしの
④みこゑひていりたまひなむとす
⑤十一日の月もかくれなむとすれはかの
⑥むまのかみのよめる
[古今]
⑦  あかなくにまたきも月のかくるゝか
⑧  山のはにけていれすもあらなん
⑨みこにかはりたてまつりてきのありつね
[後撰]
[上野岑雄]
⑩  をしなへて峯もたひらになりなゝむ
_____________________
①  山のはなくは月もいらしを

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静嘉堂文庫本】P113~118
惟喬 文德第一 母従五位上紀静子 名虎女
四品号小野宮
⑥むかしこれたかのみことと申すみこおはしまし
⑦けり山さきのあなたにみなせといふ所に
⑧宮ありけり年ことのさくらの花さかりには
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①その宮へなむおはしましけるその時みきの
②むまのかみなりける人をつねにゐておは
③しましけり時よへてひさしくなりにけれ
④はその人の名わすれにけりかりはねむ
⑤ころにもせてさけをのみのみつゝやまと
⑥うたにかゝれりけりいまかりするかたのゝ
⑦なきさのいへそのゐんのさくらことにおも
⑧しろしその木のもとにおりゐてえたを
⑨おりてかさしにさしてかみなかしもみな
_____________________
①うたよみけりうまのかみなりける人のよめる
②  㔺中にたえてさくらのなかりせは
③  春のこゝろはのとけからまし
④となむよみたりける又人のうた
⑤  ちれはこそいとゝさくらはめてたけれ
⑥  うき㔺になにかひさしかるへき
⑦とてその木のもとはたちてかへるに日くれに
⑧なりぬ御ともなる人さけをもたせて野
⑨よりいてきたりこのさけをのみてむとてよき
_____________________
①ところをもとめゆくにあまのかはといふ所
②にいたりぬみこにむまのかみおほみきま
③いるみこのゝたまひけるかたのをかりて
④あまのかはのほとりにいたるをたいにて
⑤うたよみてさかつきはさせとのたまう
⑥けれはかのむまのかみよみてたてまつりける
⑦  かりくらしたなはたつめにやとからむ
⑧  あまのかはらにわれはきにけり
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①みこ哥を返ゝすしたまうて返しえした
②まはすきのありつね御ともにつかうまつれ
③りそれか返し
④  ひとゝせにひとたひきますきみまては
⑤  やとかす人もあらしとそ思
⑥かへりて宮にいらせたまひぬ夜ふくるまて
⑦さけのみものかたりしてあるしのみこゑひて
⑧いりたまひなむとす十一日の月もかくれなむ
⑨とすれはかのむまのかみのよめる
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①  あかなくにまたきも月のかくるゝか
②  山のはにけていれすもあらなむ
③みこにかはりたてまつりてきのありつね
④  をしなへてみねもたひらになりなゝむ
⑤  山のはなくは月もいらしを

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《異同㈠》無し

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《異同㈡》無し

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《異同㈢》
A.細川文庫本P63B④……………枝をゝりて
 学習院大蔵本60丁裏④……枝をゝりて
 静嘉堂文庫本P114⑧………えたをおりて

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河野美術館蔵三条西実隆筆本第82段
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