伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

①河野美術館蔵実隆筆本・第九段《から衣きつゝなれにしつましあれは》

【河野美術館蔵実隆筆本】6丁裏~9丁表
⑧むかしおとこありけりそのおとこ身をえう
⑨なき物に思なして亰にはあらしあつまの
⑩方にすむへきくにもとめにとてゆきけり
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①もとより友とする人ひとりふたりして
②いきけりみちしれる人もなくてまとひ
③いきけりみかはのくにやつはしといふ所に
④いたりぬそこをやつはしといひけるは水ゆく
⑤河のくもてなれははしをやつわたせるにより
⑥てなむやつはしといひけるそのさはのほと
⑦りの木のかけにおりゐてかれいひくひけり
⑧そのさはにかきつはたいとおもしろくさ
⑨きたりそれを見てある人のいはくかきつは
⑩たといふいつもしをくのかみにすへてたひ
_____________________
①の心をよめといひけれはよめる
[古今]
②  から衣きつゝなれにしつましあれは
③  はる\/きぬるたひをしそ思
④とよめりけれはみな人かれいひのうへにな
⑤みたおとしてほとひにけりゆき\/てするか
⑥のくにゝいたりぬうつの山にいたりてわかい
⑦らむとするみちはいとくらうほそきにつ
⑧たかえてはしけり物心ほそくすゝろなる
⑨めを見ることゝ思ふにす行者あひたりかゝる
⑩みちはいかてかいまするといふを見れは見し
_____________________
①ひとなりけり亰にその人の御もとにとて
②ふみかきてつく
[新古今]
③  するかなるうつの山へのうつゝにも
④  ゆめにも人にあはぬなりけり
⑤ふしの山を見れはさ月のつこもりに
⑥雪いとしろうふれり
[新古今]
⑦  時しらぬ山はふしのねいつとてか
⑧  かのこまたらにゆきのふるらん
⑨その山はこゝにたとへはひえの山をはた
⑩ちはかりかさねあけたらんほとしてなりは
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[或本はしりほしの]或説云塩尻壷塩といふ物あり其尻似此山此語之習故好卑詞寂蓮
殊信用此説先人命縦雖為塩事凡卑也不可用之心えすとて
①しほしりのやうになんありける猶ゆき\/
ありなん往年有尋問人答慥不知由云々
②て武藏のくにとしもつふさのくにとの
③中にいとおほきなる河ありそれをすみた
④河といふその河のほとりにむれゐておもひ
⑤やれはかきりなくとをくもきにけるかな
⑥とわひあへるにわたしもりはやふねに
⑦のれ日もくれぬといふにのりてわたらんと
⑧するにみな人物わひしくて亰に思ふ人な
⑨きにしもあらすさるおりしもしろき
⑩とりのはしとあしとあかきしきのおほき
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①さなるみつのうへにあそひつゝいをゝくふ
②亰には見えぬとりなれはみな人見しらす
③わたしもりにとひけれはこれなん宮ことり
④といふをきゝて
[古今]
⑤  名にしおはゝいさ事とはむ宮こ鳥
⑥  わかおもふ人はありやなしやと
⑦とよめりけれは舟こそりてなきにけり

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学習院大学蔵伝定家筆本】8丁表~11丁表
⑤むかしおとこありけりそのおとこ身を
⑥えうなき物に思なして亰には
⑦あらしあつまの方にすむへき
⑧くにもとめにとてゆきけりもと
⑨より友とする人ひとりふたりして
⑩いきけりみちしれる人もなくて
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①まとひいきけりみかはのくにやつは
②しといふ所にいたりぬそこをやつは
③しといひけるは水ゆく河のくもて
④なれははしをやつわたせるによりて
       [はイ]
⑤なむやつはしといひけるそのさはの
⑥ほとりの木のかけにおりゐてかれ
⑦いひくひけりそのさはにかきつはた
⑧いとおもしろくさきけりそれを
⑨見てある人のいはくかきつはた
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①といふいつもしをくのかみにすへて
②たひの心をよめといひけれはよめる
[古今]
③  から衣きつゝなれにしつましあれは
④  はる\/きぬるたひをしそ思
⑤とよめりけれはみな人かれいひの
⑥うへになみたおとしてほとひにけり
⑦ゆき\/てするかのくにゝいたりぬ
⑧うつの山にいたりてわかいらむと
⑨するみちはいとくらうほそきに
⑩つたかえてはしけり物心ほそく
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①すゝろなるめを見ることゝ思ふに
②す行者あひたりかゝるみちはいかて
③かいまするといふを見れは見し
④ひとなりけり亰にその人の御もと
⑤にとてふみかきてつく
[新古今]
⑥  するかなるうつの山へのうつゝにも
⑦  ゆめにも人にあはぬなりけり
⑧ふしの山を見れはさ月のつこも
⑨りに雪いとしろうふれり
_____________________
[新古今]
①  時しらぬ山はふしのねいつとてか
②  かのこまたらにゆきのふるらん
③その山はこゝにたとへはひえの山
④をはたちはかりかさねあけたらん
或説云塩尻壷塩といふ物あり其尻似此山此語之習故
好卑詞寂蓮殊信用此説[或本はしりほしの]
⑤ほとしてなりはしほしりのやう
⑥になんありける
先人命縦雖為塩事凡卑也
不可用之心えすとてありなん
往年有尋問人答慥不知由云々
⑦[猶]ゆき\/て武藏のくにとしもつふさ
⑧のくにとの中に[いと]おほきなる河あり
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①それをすみた河といふその河の
②ほとりにむれゐておもひやれは
③かきりなくとをくもきにけるかな
④とわひあへるにわたしもりはやふ
⑤ねにのれ日もくれぬといふにのり
⑥てわたらんとするにみな人物わひ
⑦しくて亰に思ふ人なきにしも
⑧あらすさるおりしもしろきとりの
⑨はしとあしとあかきしきのおほ
⑩きさなるみつのうへにあそひつゝ
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①いをゝくふ亰には見えぬとりなれは
②みな人見しらすわたしもりにとひ
③けれはこれなん宮ことりといふを
④きゝて
[古今]
⑤  名にしおはゝいさ事とはむ宮こ鳥
⑥  わかおもふ人はありやなしやと
⑦とよめりけれは舟こそりてなきにけり

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静嘉堂文庫本】P13~18
②むかしおとこありけりそのおとこ身をえうなき
③ものに思なして亰にはあらしあつまの方
④にすむへきくにもとめにとてゆきけりもと
⑤よりともとする人ひとりふたりしていきけり
⑥みちしれる人もなくてまとひいきけりみかはの
⑦くにやつはしといふ所にいたりぬそこを
⑧やつはしといひけるは水ゆく河のくもてなれ✼
〈✼山田清市氏も渋谷栄一氏もここを『くもてなれは』と翻刻しているのだが画像の通リ最後の『は』は確認できない〉f:id:nobinyanmikeko:20170301154930j:plain
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①はしをやつわたせるによりてなむやつはし
 [イ無]
②とはいひけるそのさはのほとりの木のかけ
③におりゐてかれいひくひけりそのさはに
④かきつはたいとおもしろくさきたりそれを
⑤見てある人のいはくかきつはたといふいつも
⑥しをくのかみにすへてたひのこゝろ
⑦よめといひけれはよめる
⑧  から衣きつゝなれにしつましあれは
⑨  はる\/きぬるたひをしそ思
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①とよめりけれはみなひとかれいひのうへに
②なみたおとしてほとひにけり
③ゆき\/てするかのくにゝいたりぬうつの山に
④いたりてわかいらむとするみちはいとくらう
⑤ほそきにつたかえてはしけりものこゝろ
                  [にイ]
⑥ほそくすゝろなるめを見ることゝおもふ
⑦す行者あひたりかゝるみちはいかてかいますると
⑧いふを見れは見し人なりけり亰にその人
⑨の御もとに[と]てふみかきてつく
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①  するかなるうつの山邉のうつゝにも
②  ゆめにもひとにあはぬなりけり
③ふしの山を見れはさ月のつこもりに雪
④いとしろうふれり
⑤  時しらぬ山はふしのねいつとてか
⑥  かのこまたらに雪のふるらむ
⑦その山はこゝにたとへはひえの山をはたち許
            [或本はしりほしの
             其儀未通]
⑧かさねあけたらむほとしてなりはしほ
或説云塩尻寂蓮殊用此説一本塩といふ物あり其尻似此山云々
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  先人之命凡卑也不可用之 心えすとて有なむ
              往年少々有問尋人
              未知慥説由答云々
①しりのやうになむありける
②なをゆき\/てむさしのくにとしもつふさのくにと
③の中にいとおほきなる河ありそれをすみた
④河といふその河のほとりにむれゐておもひ
⑤やれはかきりなくとをくもきにけるかなと
⑥わひあへるにわたしもりはやふねにのれ日も
⑦くれぬといふにのりてわたらむとするにみな
⑧ひとものわひしくて亰におもふ人なきにしも
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①あらすさるおりしもしろきとりのはしとあし
②とあかきしきのおほきさなる水のうへに
③あそひつゝいをゝくふ亰には見えぬとりなれは
④みな人見しらすわたしもりにとひけれはこ
⑤れなむ宮ことりといふをきゝて
⑥  名にしおはゝいさことゝはむ宮ことり
⑦  わかおもふ人はありやなしやとよめり
⑧けれはふねこそりてなきにけり 

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《異同㈠》
A.河野美術館本7丁表⑥……やつはしといひける
                [はイ]
 学習院大蔵本8丁裏⑤……やつはしといひける
                [イ無]
 静嘉堂文庫本P14①………やつはしとはいひける
[やつはしと━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・根九家・根為相・定嵯峨・参為家
 やつはしとは━━武静嘉・武尊鎮・根良経・根承久・根智蘊・根理家・根千葉・根文暦・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・非通具・非実践・非藤房]
静嘉堂文庫本の校異の書込みは山田清市氏の翻刻本に載っているが朱書きとのことで影印本では確認できない。
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B.河野美術館本7丁裏⑨……見ることゝ思ふに
 学習院大蔵本9丁裏①……見ることゝ思ふに
                   [にイ]
 静嘉堂文庫本P15⑥………見ることゝおもふ
[思ふに━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・参為家・非実践
 おもふ━━武静嘉・武尊鎮・根良経・根九家・根為相・根承久・根智蘊・根理家・根千葉・根文暦・非通具・非藤房]
静嘉堂文庫本の校異の書込みは山田清市氏の翻刻本に載っているが朱書きとのことで影印本では確認できない。

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《異同㈡》
A.河野美術館本7丁表⑤……くもてなれは
 学習院大蔵本8丁裏③……くもてなれは
 静嘉堂文庫本P13⑧…………くもてなれ
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B.河野美術館本9丁表⑥……なしやととよめりけれは
 学習院大蔵本11丁表⑥…なしやととよめりけれは
 静嘉堂文庫本P18⑦………なしやとよめりけれは

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《異同㈢》無し

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宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/03/26/170335
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/19/031133
伝青蓮院尊鎮親王筆本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/05/08/233151
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/08/15/000257