伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

④伝青蓮院尊鎮親王筆本・第九段《からころもきつゝなれにしつましあれは》

【伝尊鎮親王筆本】P11~16
②むかしおとこありけりその男身をえうなき物に
③おもひなして京にはあらしあつまの方にすむへ
④きくにもとめにとてゆきけりもとよりともとする
⑤人ひとりふたりしていきけりみちしれる人もなくて
⑥まとひいきけりみかはの國やつはしといふ所にいたり
⑦ぬそこをやつはしといひけるは水ゆく河のくもて
⑧なれははしをやつわたせるによりてなむやつはしと
[イ無]
⑨はいひけるそのさはのほとりの木のかけにおりゐ
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①てかれいひくひけりそのさはにかきつはたいとおもし
②ろくさきたりそれを見てある人のいはくかきつはた
③といふいつもしをくのかみにすへてたひのこゝろ
④よめといひけれはよめる
⑤  からころもきつゝなれにしつましあれは
⑥  はる\/きぬるたひをしそ思ふ
⑦とよめりけれはみなひとかれいひのうへになみた
⑧おとしてほとひにけり
⑨ゆき\/てするかの國にいたりぬうつの山にいたりて
_____________________
①わかいらむとする道はいとくらうほそきにつたか
②えてはしけり物心ほそくすゝろなるめをみることゝ
   [にイ]
③おもふす行者あひたりかゝるみちはいかてかいまする
④といふをみれは見し人なりけり京にその人の御
⑤もとにとてふみかきてつく
⑥  するかなるうつの山邉のうつゝにも
⑦  夢にも人にあはぬなりけり
⑧ふしの山をみれはさ月のつこもりに雪いとし
⑨ろうふれり
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①  時しらぬ山はふしのねいつとてか
②  かのこまたらに雪のふるらむ
③その山はこゝにたとへはひえの山をはたち許
    [或本はしりほしの其儀未通或説云塩尻
④かさねあけたらむほとしてなりはしほしりのやうに
 寂蓮殊用此説一本塩といふ物あり其尻似此山云々
 先人之命此説凡卑也不可用之心えすとて有なむ
 往年少々有問尋人未知慥説由答之云々
⑤なむありける
⑥なをゆき\/てむさしの國としもつふさの國と
⑦の中にいとおほきなる河ありそれをすみた川と
⑧いふその河のほとりにむれゐて思ひやれはかきり
⑨なくとをくもきにけるかなとわひあへるにわたし
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①もりはやふねにのれ日も暮ぬといふにのりて
②わたらむとするにみな人物わひしくて京におもふ
③人なきにしもあらすさるおりしもしろきとりの
④はしとあしとあかきしきのおほきさなる水の
⑤うへにあそひつゝいをゝくふ京にはみえぬ鳥なれは
⑥みな人みしらすわたしもりにとひけれはこれなむ
⑦みやことりといふをきゝて
⑧  名にしおはゝいさことゝはむ宮ことり
⑨  我思ふ人はありやなしやと とよめり
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①けれはふねこそりてなきにけり

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学習院大学蔵伝定家筆本】8丁表〜11丁表
⑤むかしおとこありけりそのおとこ身を
⑥えうなき物に思なして亰には
⑦あらしあつまの方にすむへき
⑧くにもとめにとてゆきけりもと
⑨より友とする人ひとりふたりして
⑩いきけりみちしれる人もなくて
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①まとひいきけりみかはのくにやつは
②しといふ所にいたりぬそこをやつは
③しといひけるは水ゆく河のくもて
④なれははしをやつわたせるによりて
       [はイ]
⑤なむやつはしといひけるそのさはの
⑥ほとりの木のかけにおりゐてかれ
⑦いひくひけりそのさはにかきつはた
⑧いとおもしろくさきけりそれを
⑨見てある人のいはくかきつはた
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①といふいつもしをくのかみにすへて
②たひの心をよめといひけれはよめる
[古今]
③  から衣きつゝなれにしつましあれは
④  はる\/きぬるたひをしそ思
⑤とよめりけれはみな人かれいひの
⑥うへになみたおとしてほとひにけり
⑦ゆき\/てするかのくにゝいたりぬ
⑧うつの山にいたりてわかいらむと
⑨するみちはいとくらうほそきに
⑩つたかえてはしけり物心ほそく
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①すゝろなるめを見ることゝ思ふに
②す行者あひたりかゝるみちはいかて
③かいまするといふを見れは見し
④ひとなりけり亰にその人の御もと
⑤にとてふみかきてつく
[新古今]
⑥  するかなるうつの山へのうつゝにも
⑦  ゆめにも人にあはぬなりけり
⑧ふしの山を見れはさ月のつこも
⑨りに雪いとしろうふれり
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[新古今]
①  時しらぬ山はふしのねいつとてか
②  かのこまたらにゆきのふるらん
③その山はこゝにたとへはひえの山
④をはたちはかりかさねあけたらん
或説云塩尻壷塩といふ物あり其尻似此山此語之習故
好卑詞寂蓮殊信用此説[或本はしりほしの]
⑤ほとしてなりはしほしりのやう
⑥になんありける
先人命縦雖為塩事凡卑也
不可用之心えすとてありなん
往年有尋問人答慥不知由云々
⑦[猶]ゆき\/て武藏のくにとしもつふさ
⑧のくにとの中に[いと]おほきなる河あり
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①それをすみた河といふその河の
②ほとりにむれゐておもひやれは
③かきりなくとをくもきにけるかな
④とわひあへるにわたしもりはやふ
⑤ねにのれ日もくれぬといふにのり
⑥てわたらんとするにみな人物わひ
⑦しくて亰に思ふ人なきにしも
⑧あらすさるおりしもしろきとりの
⑨はしとあしとあかきしきのおほ
⑩きさなるみつのうへにあそひつゝ
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①いをゝくふ亰には見えぬとりなれは
②みな人見しらすわたしもりにとひ
③けれはこれなん宮ことりといふを
④きゝて
[古今]
⑤  名にしおはゝいさ事とはむ宮こ鳥
⑥  わかおもふ人はありやなしやと
⑦とよめりけれは舟こそりてなきにけり

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静嘉堂文庫本】P13~18
②むかしおとこありけりそのおとこ身をえうなき
③ものに思なして亰にはあらしあつまの方
④にすむへきくにもとめにとてゆきけりもと
⑤よりともとする人ひとりふたりしていきけり
⑥みちしれる人もなくてまとひいきけりみかはの
⑦くにやつはしといふ所にいたりぬそこを
⑧やつはしといひけるは水ゆく河のくもてなれ
_____________________
①はしをやつわたせるによりてなむやつはし
 [イ無]
②とはいひけるそのさはのほとりの木のかけ
③におりゐてかれいひくひけりそのさはに
④かきつはたいとおもしろくさきたりそれを
⑤見てある人のいはくかきつはたといふいつも
⑥しをくのかみにすへてたひのこゝろ
⑦よめといひけれはよめる
⑧  から衣きつゝなれにしつましあれは
⑨  はる\/きぬるたひをしそ思
_____________________
①とよめりけれはみなひとかれいひのうへに
②なみたおとしてほとひにけり
③ゆき\/てするかのくにゝいたりぬうつの山に
④いたりてわかいらむとするみちはいとくらう
⑤ほそきにつたかえてはしけりものこゝろ
                  [にイ]
⑥ほそくすゝろなるめを見ることゝおもふ
⑦す行者あひたりかゝるみちはいかてかいますると
⑧いふを見れは見し人なりけり亰にその人
⑨の御もとに[と]てふみかきてつく
_____________________
①  するかなるうつの山邉のうつゝにも
②  ゆめにもひとにあはぬなりけり
③ふしの山を見れはさ月のつこもりに雪
④いとしろうふれり
⑤  時しらぬ山はふしのねいつとてか
⑥  かのこまたらに雪のふるらむ
⑦その山はこゝにたとへはひえの山をはたち許
            [或本はしりほしの
             其儀未通]
⑧かさねあけたらむほとしてなりはしほ
或説云塩尻寂蓮殊用此説一本塩といふ物あり其尻似此山云々
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  先人之命凡卑也不可用之 心えすとて有なむ
              往年少々有問尋人
              未知慥説由答云々
①しりのやうになむありける
②なをゆき\/てむさしのくにとしもつふさのくにと
③の中にいとおほきなる河ありそれをすみた
④河といふその河のほとりにむれゐておもひ
⑤やれはかきりなくとをくもきにけるかなと
⑥わひあへるにわたしもりはやふねにのれ日も
⑦くれぬといふにのりてわたらむとするにみな
⑧ひとものわひしくて亰におもふ人なきにしも
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①あらすさるおりしもしろきとりのはしとあし
②とあかきしきのおほきさなる水のうへに
③あそひつゝいをゝくふ亰には見えぬとりなれは
④みな人見しらすわたしもりにとひけれはこ
⑤れなむ宮ことりといふをきゝて
⑥  名にしおはゝいさことゝはむ宮ことり
⑦  わかおもふ人はありやなしやとよめり
⑧けれはふねこそりてなきにけり 

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《異同㈠》
                [イ無] 
A.尊鎮親王筆本P11⑨………やつはしとはいひける
                [はイ]
 学習院大蔵本8丁裏⑤……やつはしといひける
                [イ無]
 静嘉堂文庫本P14①………やつはしとはいひける
[やつはしと━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・根九家・根為相・定嵯峨・参為家
 やつはしとは━━武静嘉・武尊鎮・根良経・根承久・根智蘊・根理家・根千葉・根文暦・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・非通具・非実践・非藤房]
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                  [にイ]
B.尊鎮親王筆本P13②………みることゝ思ふ
 学習院大蔵本9丁裏①……見ることゝ思ふに
                   [にイ]
 静嘉堂文庫本P15⑥………見ることゝおもふ
[思ふに━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・参為家・非実践
 おもふ━━武静嘉・武尊鎮・根良経・根九家・根為相・根承久・根智蘊・根理家・根千葉・根文暦・非通具・非藤房]

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《異同㈡》
A.尊鎮親王筆本P11⑧………くもてなれは
 学習院大蔵本8丁裏③……くもてなれは
 静嘉堂文庫本P13⑧………くもてなれ
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B.尊鎮親王筆本P15⑨………なしやととよめりけれは
 学習院大蔵本11丁表⑥…なしやととよめりけれは
 静嘉堂文庫本P18⑦………なしやとよめりけれは

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《異同㈢》無し

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河野美術館蔵三条西実隆筆本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2016/10/03/131739
宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/03/26/170335
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/19/031133
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第9段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/08/15/000257