伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

③九州大学図書館蔵伝実隆筆細川文庫本・第六十五段《思ふにはしのふることそまけにける》

【九大蔵伝実隆筆細川文庫本】P47B~50B
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①むかしおほやけおほしてつかうたまふ女の色
②ゆるされたるありけりおほみやすん所とて
③いますかりけるいとこなりけり殿上にさふら
④ひける在原なりけるおとこのまたいとわかゝ
⑤りけるをこの女あひしりたりけりおとこ
⑥女かたゆるされたりけれは女のある所にきて
⑦むかひをりけれは女いとかたはなり身もほ
⑧ろひなんかくなせそといひけれは
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[新古今]
①  思ふにはしのふることそまけにける
②  あふにしかへはさもあらはあれ
③といひてさうしにおりたまへれはれいのこのみ
④さうしには人のみるをもしらてのほりゐけれは
⑤この女思ひわひてさとへゆくされはなにのよき
⑥ことゝ思ていきかよひけれはみな人きゝてわら
⑦ひけりつとめてとのもつかさのみるにくつは
⑧とりておくになけいれてのほりぬかくかた
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①はにしつゝありわたるに身もいたつらになり
②ぬへけれはつゐにほろひぬへしとてこの
③おとこいかにせんわかかゝる心やめたまへとほ
④とけ神にも申けれといやまさりにのみおほ
⑤えつゝ猶わりなくこひしうのみおほえけれは
⑥おんやうしかんなきよひてこひせしといふ
はらへのくしてなんいきけるはらへけるまゝ
⑧にいとゝかなしきことかすまさりてありしよ
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①りけにこひしくのみおほえけれは
[古今]
[無作者]
②  こひせしとみたらし河にせしみそき
③  神はうけすもなりにけるかな
④といひてなんいにける
⑤このみかとはかほかたちよくおはしましてほとけ
⑥の御名を御心にいれて御こゑはいとたうとく
⑦て申たまふをきゝて女はいたうなきけりかゝ
⑧るきみにつかうまつらてすくせつたなくかな
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①しきことこのおとこにほたされてとてなん
②なきけるかゝるほとにみかときこしめしつ
③けてこのおとこをはなかしつかはしてけれは
④この女のいとこのみやすところ女をはまかてさ
⑤せてくらにこめてしおりたまふけれはくら
⑥にこもりてなく
[古今]
典侍
[直子]
⑦  あまのかるもにすむゝしの我からと
⑧  ねをこそなかめ世をはうらみし
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①となきをれはこのおとこ人のくにより夜こ
②とにきつゝふえをいとおもしろくふきて
③こゑはおかしうてそあはれにうたひけるかゝれ
④はこの女はくらにこもりなからそれにそあな
⑤るとはきけとあひみるへきにもあらてなん
⑥ありける
⑦  さりともと思らんこそかなしけれ
⑧  あるにもあらぬ身をしらすして
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①とおもひをりおとこは女しあはねはかくしあ
②りきつゝ人のくにゝありきてかくうたふ
[古今]
[無作者]
③  いたつらにゆきてはきぬる物ゆへに
④  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑤水のおの御時なるへしおほみやすん所もそ
⑥めとのゝ后也五条の后とも

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学習院大学蔵伝定家筆本】44丁表~47丁裏
⑨むかしおほやけおほしてつかう
⑩たまふ女の色ゆるされたるありけり
⑪おほみやすん所とていますかりける
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①いとこなりけり殿上にさふらひける
②在原なりけるおとこのまたいとわかゝり
③けるをこの女あひしりたりけりおとこ
④女かたゆるされたりけれは女のある所に
⑤きてむかひをりけれは女いとかたは
⑥なり身もほろひなんかくなせそと
⑦いひけれは
[新古今]
⑧  思ふにはしのふることそまけにける
⑨  あふにしかへはさもあらはあれ
⑩といひてさうしにおりたまへれはれいのこの
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①みさうしには人の見るをもしらて
②のほりゐけれはこの女思ひわひてさ
③とへゆくされはなにのよきことゝ思て
④いきかよひけれはみな人きゝてわ
⑤らひけりつとめてとのもつかさの見る
⑥にくつはとりておくになけいれて
⑦のほりぬかくかたはにしつゝありわ
⑧たるに身もいたつらになりぬへけれは
⑨つゐにほろひぬへしとてこのお
⑩とこいかにせんわかかゝる心やめたまへと
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①ほとけ神にも申けれといやまさり
②にのみおほえつゝ猶わりなくこひ
③しうのみおほえけれはおむやうし
④かむなきよひてこひせしといふはら
⑤へのくしてなむいきけるはらへける
⑥まゝにいとゝかなしきことかすまさり
⑦てありしよりけにこひしくのみ
⑧おほえけれは
[古今]
[無作者]
⑨  こひせしとみたらし河にせしみそき
⑩  神はうけすもなりにけるかな
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①といひてなんいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまし
③てほとけの御名を御心にいれて御こ
④ゑはいとたうとくて申たまふをきゝて
⑤女はいたうなきけりかゝるきみにつ
⑥かうまつらてすくせつたなくかなし
⑦きことこのおとこにほたされてとて
⑧なんなきけるかゝるほとにみかと
⑨きこしめしつけてこのおとこをは
⑩なかしつかはしてけれはこの女の
⑪いとこのみやすところ
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①女をはまかてさせてくらにこめて
②しおりたまふけれはくらにこも
③りてなく
[古今]
典侍
[直子]
④  あまのかるもにすむゝしの我からと
⑤  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
⑥となきをれはこのおとこ人のくに
⑦より夜ことにきつゝふえをいと
⑧おもしろくふきてこゑはおかし
⑨うてそあはれにうたひけるかゝ
⑩れはこの女はくらにこもりなから
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①それにそあなるとはきけとあひ
②見るへきにもあらてなんありける
③  さりともと思覧こそかなしけれ
④  あるにもあらぬ身をしらすして
⑤とおもひをりおとこは女しあ
⑥はねはかくしありきつゝ人のくにゝ
⑦ありきてかくうたふ
[古今]
[無作者]
⑧  いたつらに行てはきぬる物ゆへに
⑨  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑩水のおの御時なるへしおほみやすん
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①所もそめとのゝ后也五条の后とも
清和天皇鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意
風姿甚端嚴如神性

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静嘉堂文庫本】P83〜90
⑧むかしおほやけおほしてつかうたまふ
⑨女のいろゆるされたるありけりおほみやすん
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①所とていますかりけるいとこなりけり殿上に
②さふらひけるありはらなりけるおとこのまた
③いとわかゝりけるをこの女あひしりたりけり
④おとこ女かたゆるされたりけれは女のある所に
⑤[きてむかひをりけれは女いとかたは]なり身もほろひなむかくなせそといひけ
⑥れは
⑦  おもふにはしのふることそまけにける
⑧  あふにしかへはさもあらはあれ
⑨といひてさうしにおりたまへれはれいのこの
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①みさうしには人の見るをもしらてのほり
②ゐけれはこの女おもひわひてさとへゆく
③されはなにのよき事と思ひていきかよひ
④けれはみなひときゝてわらひけりつとめ
⑤てとのもつかさの見るにくつはとりておく
⑥になけいれてのほりぬかくかたはにしつゝ
⑦ありわたるに身もいたつらになりぬへけれは
⑧つゐにほろひぬへしとてこのおとこいかにせむ
⑨わかかゝるこゝろやめたまへとほとけ神にも
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①申けれといやまさりにのみおほえつゝなを
②わりなくこひしうのみおほえけれはおむ
③やうしかむなきよひてこひせしといふはら
                    [と]
④のくしてなむいきけるはらへけるまゝにいとゝ
⑤かなしきことかすまさりてありしよりけに
⑥こひしくのみおほえけれは
⑦  恋せしとみたらしかはにせしみそき
⑧  神はうけすもなりにけるかな
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①といひてなむいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまして
③ほとけの御なを御心にいれて御こゑは
④いとたうとくて申たまふをきゝて女はいたう
⑤なきけりかゝるきみにつかうまつらてすくせ
⑥つたなくかなしきことこのおとこにほたさ
⑦れてとてなむなきけるかゝるほとにみかと
⑧きこしめしつけてこのおとこをはなかし
⑨つかはしてけれはこの女のいとこのみやすところ
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①女をはまかてさせてくらにこめてしおり
②たまふけれはくらにこもりてなく
③  あまのかるもにすむゝしのわれからと
④  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
           [イ無]
⑤となきをれはこのおとこは人のくにより
⑥夜ことにきつゝふえをいとおもしろく
⑦ふきてこゑはおかしうてそあはれにう
⑧たひけるかゝれはこの女はくらにこもりなから
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①それにそあなるとはきけとあひ見るへき
②にもあらてなむありける
③  さりともと思ふらむこそかなしけれ
④  あるにもあらぬ身をしらすして
⑤とおもひをりおとこは女しあはねはかく
⑥しありきつゝ人のくにゝありきてかくうたふ
⑦  いたつらにゆきてはきぬるものゆへに
⑧  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑨水のおの御時なるへしおほみやすん所も
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①そめとのゝきさきなり五条のきさきとも
清和天皇 鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意風姿甚端嚴如神性

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《異同㈠》
A.細川文庫本P50A①……………このおとこ
 学習院大蔵本46丁裏⑥……このおとこ
                 [イ無]
 静嘉堂文庫本P88⑤…………このおとこは
[このおとこ━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・定嵯峨・根理家・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・非通具
 このおとこは━━武静嘉・武尊鎮・武永兼・武陽明・武雅親・根九家・根智蘊・根良経・根千葉・根文暦・根為相・根承久・定支子・非藤房
 このおとこに━━参為家
 (無し)━━非実践]

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《異同㈡》無し

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《異同㈢》無し

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河野美術館蔵三条西実隆筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2016/10/25/005910
宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/01/213105
伝青蓮院尊鎮親王筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/06/06/230025
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/10/09/075755