伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

①河野美術館蔵実隆筆本・第六十五段《思ふにはしのふることそまけにける》

【河野美術館蔵実隆筆本】38丁裏~41丁表
④むかしおほやけおほしてつかうたまふ女の
⑤色ゆるされたるありけりおほみやすん所とて
⑥いますかりけるいとこなりけり殿上にさふら
⑦ひける在原なりけるおとこのまたいとわかゝり
⑧けるをこの女あひしりたりけりおとこ女かた
⑨ゆるされたりけれは女のある所にきてむかひをり
⑩けれは女いとかたはなり身もほろひなんかく
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①なせそといひけれは
[新古今]
②  思ふにはしのふることそまけにける
③  あふにしかへはかへはさもあらはあれ
④といひてさうしにおりたまへれはれいのこ
⑤のみさうしには人の見るをもしらてのほ
⑥りゐけれはこの女思ひわひてさとへゆくされ
⑦はなにのよきことゝ思ていきかよひけれはみな
⑧人きゝてわらひけりつとめてとのもつかさの見る
⑨にくつはとりておくになけいれてのほりぬかく
⑩かたはにしつゝありわたるに身もいたつらに
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①なりぬへけれはつゐにほろひぬへしとてこの
②おとこいかにせんわかかゝる心やめたまへとほと
③け神にも申けれといやまさりにのみおほえ
④つゝ猶わりなくこひしうのみおほえけれは
⑤おむやうしかむなきよひてこひせしといふ
はらへのくしてなむいきけるはらへけるまゝ
⑦にいとゝかなしきことかすまさりてありし
⑧よりけにこひしくのみおほえけれは
[古今]
[無作者]
⑨  こひせしとみたらし河にせしみそき
⑩  神はうけすもなりにけるかな
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①といひてなんいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまして
③ほとけの御名を御心にいれて御こゑはいとた
④うとくて申たまふをきゝて女はいたうなき
⑤けりかゝるきみにつかうまつらてすくせつた
⑥なくかなしきことこのおとこにほたされてとて
⑦なんなきけるかゝるほとにみかときこしめし
⑧つけてこのおとこをはなかしつかはしてけれ
⑨はこの女のいとこのみやすところ女をはま
⑩かてさせてくらにこめてしおりたまふけれ
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①はくらにこもりてなく
[古今]
典侍
[直子]
②  あまのかるもにすむゝしの我からと
③  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
④となきをれはこのおとこ人のくにより夜
⑤ことにきつゝふえをいとおもしろくふきて
⑥こゑはおかしうてそあはれにうたひけるかゝ
⑦れはこの女はくらにこもりなからそれにそあ
⑧なるとはきけとあひ見るへきにもあらて
⑨なんありける
⑩  さりともと思覧こそかなしけれ
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①  あるにもあらぬ身をしらすして
②とおもひをりおとこは女しあはねはかくし
③ありきつゝ人のくにゝありきてかくうたふ
[古今]
[無作者]
④  いたつらに行てはきぬる物ゆへに
⑤  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑥水のおの御時なるへしおほみやすん所も
⑦そめとのゝ后也五条の后とも
清和天皇鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意
風姿甚端嚴如神性

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学習院大学蔵伝定家筆本】44丁表~47丁裏
⑨むかしおほやけおほしてつかう
⑩たまふ女の色ゆるされたるありけり
⑪おほみやすん所とていますかりける
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①いとこなりけり殿上にさふらひける
②在原なりけるおとこのまたいとわかゝり
③けるをこの女あひしりたりけりおとこ
④女かたゆるされたりけれは女のある所に
⑤きてむかひをりけれは女いとかたは
⑥なり身もほろひなんかくなせそと
⑦いひけれは
[新古今]
⑧  思ふにはしのふることそまけにける
⑨  あふにしかへはさもあらはあれ
⑩といひてさうしにおりたまへれはれいのこの
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①みさうしには人の見るをもしらて
②のほりゐけれはこの女思ひわひてさ
③とへゆくされはなにのよきことゝ思て
④いきかよひけれはみな人きゝてわ
⑤らひけりつとめてとのもつかさの見る
⑥にくつはとりておくになけいれて
⑦のほりぬかくかたはにしつゝありわ
⑧たるに身もいたつらになりぬへけれは
⑨つゐにほろひぬへしとてこのお
⑩とこいかにせんわかかゝる心やめたまへと
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①ほとけ神にも申けれといやまさり
②にのみおほえつゝ猶わりなくこひ
③しうのみおほえけれはおむやうし
④かむなきよひてこひせしといふはら
⑤へのくしてなむいきけるはらへける
⑥まゝにいとゝかなしきことかすまさり
⑦てありしよりけにこひしくのみ
⑧おほえけれは
[古今]
[無作者]
⑨  こひせしとみたらし河にせしみそき
⑩  神はうけすもなりにけるかな
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①といひてなんいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまし
③てほとけの御名を御心にいれて御こ
④ゑはいとたうとくて申たまふをきゝて
⑤女はいたうなきけりかゝるきみにつ
⑥かうまつらてすくせつたなくかなし
⑦きことこのおとこにほたされてとて
⑧なんなきけるかゝるほとにみかと
⑨きこしめしつけてこのおとこをは
⑩なかしつかはしてけれはこの女の
⑪いとこのみやすところ
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①女をはまかてさせてくらにこめて
②しおりたまふけれはくらにこも
③りてなく
[古今]
典侍
[直子]
④  あまのかるもにすむゝしの我からと
⑤  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
⑥となきをれはこのおとこ人のくに
⑦より夜ことにきつゝふえをいと
⑧おもしろくふきてこゑはおかし
⑨うてそあはれにうたひけるかゝ
⑩れはこの女はくらにこもりなから
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①それにそあなるとはきけとあひ
②見るへきにもあらてなんありける
③  さりともと思覧こそかなしけれ
④  あるにもあらぬ身をしらすして
⑤とおもひをりおとこは女しあ
⑥はねはかくしありきつゝ人のくにゝ
⑦ありきてかくうたふ
[古今]
[無作者]
⑧  いたつらに行てはきぬる物ゆへに
⑨  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑩水のおの御時なるへしおほみやすん
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①所もそめとのゝ后也五条の后とも
清和天皇鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意
風姿甚端嚴如神性

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静嘉堂文庫本】P83〜90
⑧むかしおほやけおほしてつかうたまふ
⑨女のいろゆるされたるありけりおほみやすん
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①所とていますかりけるいとこなりけり殿上に
②さふらひけるありはらなりけるおとこのまた
③いとわかゝりけるをこの女あひしりたりけり
④おとこ女かたゆるされたりけれは女のある所に
⑤[きてむかひをりけれは女いとかたは]なり身もほろひなむかくなせそといひけ
⑥れは
⑦  おもふにはしのふることそまけにける
⑧  あふにしかへはさもあらはあれ
⑨といひてさうしにおりたまへれはれいのこの
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①みさうしには人の見るをもしらてのほり
②ゐけれはこの女おもひわひてさとへゆく
③されはなにのよき事と思ひていきかよひ
④けれはみなひときゝてわらひけりつとめ
⑤てとのもつかさの見るにくつはとりておく
⑥になけいれてのほりぬかくかたはにしつゝ
⑦ありわたるに身もいたつらになりぬへけれは
⑧つゐにほろひぬへしとてこのおとこいかにせむ
⑨わかかゝるこゝろやめたまへとほとけ神にも
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①申けれといやまさりにのみおほえつゝなを
②わりなくこひしうのみおほえけれはおむ
③やうしかむなきよひてこひせしといふはら
                    [と]
④のくしてなむいきけるはらへけるまゝにいとゝ
⑤かなしきことかすまさりてありしよりけに
⑥こひしくのみおほえけれは
⑦  恋せしとみたらしかはにせしみそき
⑧  神はうけすもなりにけるかな
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①といひてなむいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまして
③ほとけの御なを御心にいれて御こゑは
④いとたうとくて申たまふをきゝて女はいたう
⑤なきけりかゝるきみにつかうまつらてすくせ
⑥つたなくかなしきことこのおとこにほたさ
⑦れてとてなむなきけるかゝるほとにみかと
⑧きこしめしつけてこのおとこをはなかし
⑨つかはしてけれはこの女のいとこのみやすところ
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①女をはまかてさせてくらにこめてしおり
②たまふけれはくらにこもりてなく
③  あまのかるもにすむゝしのわれからと
④  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
           [イ無]
⑤となきをれはこのおとこは人のくにより
⑥夜ことにきつゝふえをいとおもしろく
⑦ふきてこゑはおかしうてそあはれにう
⑧たひけるかゝれはこの女はくらにこもりなから
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①それにそあなるとはきけとあひ見るへき
②にもあらてなむありける
③  さりともと思ふらむこそかなしけれ
④  あるにもあらぬ身をしらすして
⑤とおもひをりおとこは女しあはねはかく
⑥しありきつゝ人のくにゝありきてかくうたふ
⑦  いたつらにゆきてはきぬるものゆへに
⑧  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑨水のおの御時なるへしおほみやすん所も
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①そめとのゝきさきなり五条のきさきとも
清和天皇 鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意風姿甚端嚴如神性

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《異同㈠》
A.河野美術館本40丁裏④……このおとこ
 学習院大蔵本46丁裏⑥……このおとこ
                 [イ無]
 静嘉堂文庫本P88⑤…………このおとこは
[このおとこ━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・定嵯峨・根理家・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・非通具
 このおとこは━━武静嘉・武尊鎮・武永兼・武陽明・武雅親・根九家・根智蘊・根良経・根千葉・根文暦・根為相・根承久・定支子・非藤房
 このおとこに━━参為家
 (無し)━━非実践]
静嘉堂文庫本の校異の書込みは朱書きとのことで影印本では確認できないが山田清市氏の翻刻(古典文庫229)により補った。

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《異同㈡》無し

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《異同㈢》無し

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宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/01/213105
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/26/104919
伝青蓮院尊鎮親王筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/06/06/230025
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/10/09/075755