伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

⑤九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本・第六十五段《おもふにはしのふることそまけにける》

【九大蔵伝為家筆本】P127〜136
③むかしおほやけおほしてつ
④かうたまふ女のいろゆるさ
⑤れたるありけり大みやすむと
⑥ころとていますかりけるいと
⑦こなりけり殿上にさふらひけ
⑧る在原なりけるおとこのまた
⑨いとわかゝりけるをこの女あひ
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①しりたりけりおとこ女
②かたゆるされたりけれは女の
③あるところにきてむかひ
④をりけれは女いとかたはな
⑤り身もほろひなむかく
⑥なせそといひけれは
⑦  おもふにはしのふることそ
⑧  まけにけるあふにしかへは
⑨  さもあらはあれ
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①といひてさうしにおりた
   れ
②まへはれいのこのみさうしに
③は人のみるをもしらての
④ほりゐけれはこの女おもひ
⑤わひてさとへゆくされはなに
⑥のよきことゝ思ていきかよ
⑦ひけれはみな人きゝてわらひ
⑧けりつとめてとのもつか
⑨さのみるにくつはとりて
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①おくになけいれてのほりぬ
②かくかたわにしつゝあり
③わたるに身もいたつらになり
④ぬへけれはつゐにほろひぬへ
⑤しとてこのおとこいかに
⑥せむと〝て〟わかかゝるこゝろ
⑦め給へとほとけかみにも申
              え
⑧けれといやまさりにのみおほ
⑨つゝなをわりなくこひし
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①うのみおほえけれはをんやう
②しかむなきよひてこひ
③せしといふはらへのくして
④なんいきけるはらへけるまゝ
⑤にいとかなしきことかすまさ
⑥りてありしよりけにこひ
⑦しうのみおほえけれは
⑧  こひせしとみたらしかはに
⑨  せしみそき神はうけすも
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①  なりにけるかな
②といひてなんいにける
清和天皇 鷹犬之遊漁獵之娯未甞留意風姿甚端厳如神性
③このみかとはかほかたちよく
④おはしましてほとけの御名
⑤を御心にいれて御こゑはいとた
⑥うとくて申たまふをき
⑦きて女はいたうなきけり
⑧かゝるきみにつかうまつ
⑨らてすくせつたなくかな
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①しきことこのおとこに
②ほたされてとてなんなき
③けるかゝるほとにみかときこ
④しめし〝て〟つけてこのおとこ
⑤をはなかしつかはしてけれは
⑥この女のいとこの御息所女を
⑦はまかてさせてくらにこめて
しほりたまふけれはくらに
⑨こもりてなく
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古今
典侍原直子朝臣
正四位下
①  あまのかるもにすむゝしの
②  われからとねをこそなかめ
③  よをはうらみし
④となきをれはこのおとこは
⑤人のくによりよことにき
⑥つゝふえをいとおもしろく
⑦ふきてこゑはおかしうて
⑧そあはれにうたひけるかゝ
⑨れはこの女はくらにこもりな
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①からそれにそあなるとはき
②けとあひみるへきにもあらて
③なむありける
④  さりともとおもふらんこそ
⑤  かなしけれあるにもあらぬ
⑥  身をしらすして
⑦とおもひをりおとこは女し
⑧あはねはかくしありきつゝ
⑨人のくにゝありきてかくうたふ
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①  いたつらにゆきてはきぬる
②  ものゆへにみまくほしさに
③  いさなはれつゝ
④水のおの御時なるへしおほ
⑤みやすむ所はそめとのゝ后也
⑥五条のきさきとも

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学習院大学蔵伝定家筆本】44丁表~47丁裏
⑨むかしおほやけおほしてつかう
⑩たまふ女の色ゆるされたるありけり
⑪おほみやすん所とていますかりける
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①いとこなりけり殿上にさふらひける
②在原なりけるおとこのまたいとわかゝり
③けるをこの女あひしりたりけりおとこ
④女かたゆるされたりけれは女のある所に
⑤きてむかひをりけれは女いとかたは
⑥なり身もほろひなんかくなせそと
⑦いひけれは
[新古今]
⑧  思ふにはしのふることそまけにける
⑨  あふにしかへはさもあらはあれ
⑩といひてさうしにおりたまへれはれいのこの
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①みさうしには人の見るをもしらて
②のほりゐけれはこの女思ひわひてさ
③とへゆくされはなにのよきことゝ思て
④いきかよひけれはみな人きゝてわ
⑤らひけりつとめてとのもつかさの見る
⑥にくつはとりておくになけいれて
⑦のほりぬかくかたはにしつゝありわ
⑧たるに身もいたつらになりぬへけれは
⑨つゐにほろひぬへしとてこのお
⑩とこいかにせんわかかゝる心やめたまへと
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①ほとけ神にも申けれといやまさり
②にのみおほえつゝ猶わりなくこひ
③しうのみおほえけれはおむやうし
④かむなきよひてこひせしといふはら
⑤へのくしてなむいきけるはらへける
⑥まゝにいとゝかなしきことかすまさり
⑦てありしよりけにこひしくのみ
⑧おほえけれは
[古今]
[無作者]
⑨  こひせしとみたらし河にせしみそき
⑩  神はうけすもなりにけるかな
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①といひてなんいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまし
③てほとけの御名を御心にいれて御こ
④ゑはいとたうとくて申たまふをきゝて
⑤女はいたうなきけりかゝるきみにつ
⑥かうまつらてすくせつたなくかなし
⑦きことこのおとこにほたされてとて
⑧なんなきけるかゝるほとにみかと
⑨きこしめしつけてこのおとこをは
⑩なかしつかはしてけれはこの女の
⑪いとこのみやすところ
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①女をはまかてさせてくらにこめて
②しおりたまふけれはくらにこも
③りてなく
[古今]
典侍
[直子]
④  あまのかるもにすむゝしの我からと
⑤  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
⑥となきをれはこのおとこ人のくに
⑦より夜ことにきつゝふえをいと
⑧おもしろくふきてこゑはおかし
⑨うてそあはれにうたひけるかゝ
⑩れはこの女はくらにこもりなから
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①それにそあなるとはきけとあひ
②見るへきにもあらてなんありける
③  さりともと思覧こそかなしけれ
④  あるにもあらぬ身をしらすして
⑤とおもひをりおとこは女しあ
⑥はねはかくしありきつゝ人のくにゝ
⑦ありきてかくうたふ
[古今]
[無作者]
⑧  いたつらに行てはきぬる物ゆへに
⑨  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑩水のおの御時なるへしおほみやすん
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①所もそめとのゝ后也五条の后とも
清和天皇鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意
風姿甚端嚴如神性

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静嘉堂文庫本】P83〜90
⑧むかしおほやけおほしてつかうたまふ
⑨女のいろゆるされたるありけりおほみやすん
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①所とていますかりけるいとこなりけり殿上に
②さふらひけるありはらなりけるおとこのまた
③いとわかゝりけるをこの女あひしりたりけり
④おとこ女かたゆるされたりけれは女のある所に
⑤[きてむかひをりけれは女いとかたは]なり身もほろひなむかくなせそといひけ
⑥れは
⑦  おもふにはしのふることそまけにける
⑧  あふにしかへはさもあらはあれ
⑨といひてさうしにおりたまへれはれいのこの
_____________________
①みさうしには人の見るをもしらてのほり
②ゐけれはこの女おもひわひてさとへゆく
③されはなにのよき事と思ひていきかよひ
④けれはみなひときゝてわらひけりつとめ
⑤てとのもつかさの見るにくつはとりておく
⑥になけいれてのほりぬかくかたはにしつゝ
⑦ありわたるに身もいたつらになりぬへけれは
⑧つゐにほろひぬへしとてこのおとこいかにせむ
⑨わかかゝるこゝろやめたまへとほとけ神にも
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①申けれといやまさりにのみおほえつゝなを
②わりなくこひしうのみおほえけれはおむ
③やうしかむなきよひてこひせしといふはら
                    [と]
④のくしてなむいきけるはらへけるまゝにいとゝ
⑤かなしきことかすまさりてありしよりけに
⑥こひしくのみおほえけれは
⑦  恋せしとみたらしかはにせしみそき
⑧  神はうけすもなりにけるかな
_____________________
①といひてなむいにける
②このみかとはかほかたちよくおはしまして
③ほとけの御なを御心にいれて御こゑは
④いとたうとくて申たまふをきゝて女はいたう
⑤なきけりかゝるきみにつかうまつらてすくせ
⑥つたなくかなしきことこのおとこにほたさ
⑦れてとてなむなきけるかゝるほとにみかと
⑧きこしめしつけてこのおとこをはなかし
⑨つかはしてけれはこの女のいとこのみやすところ
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①女をはまかてさせてくらにこめてしおり
②たまふけれはくらにこもりてなく
③  あまのかるもにすむゝしのわれからと
④  ねをこそなかめ㔺をはうらみし
           [イ無]
⑤となきをれはこのおとこは人のくにより
⑥夜ことにきつゝふえをいとおもしろく
⑦ふきてこゑはおかしうてそあはれにう
⑧たひけるかゝれはこの女はくらにこもりなから
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①それにそあなるとはきけとあひ見るへき
②にもあらてなむありける
③  さりともと思ふらむこそかなしけれ
④  あるにもあらぬ身をしらすして
⑤とおもひをりおとこは女しあはねはかく
⑥しありきつゝ人のくにゝありきてかくうたふ
⑦  いたつらにゆきてはきぬるものゆへに
⑧  見まくほしさにいさなはれつゝ
⑨水のおの御時なるへしおほみやすん所も
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①そめとのゝきさきなり五条のきさきとも
清和天皇 鷹犬之遊漁獵之娯未嘗留意風姿甚端嚴如神性

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《異同㈠》
A.九大為家筆本P130⑤………いかにせむと〝て〟
 学習院大蔵本45丁表⑩……いかにせん
 静嘉堂文庫本P85⑧…………いかにせむ
 [いかにせむと━━武雅親・根九家
  いかにせむ━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・武静嘉・武尊鎮・武永兼・武陽明・根理家・根文暦・根良経・根為相・根承久・根智蘊・定嵯峨・定支子・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・参為家・非通具・非藤房・非実践
  いかゝせむ━━根千葉]
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B.九大為家筆本P134④………このおとこは
 学習院大蔵本46丁裏⑥……このおとこ
                 [イ無]
 静嘉堂文庫本P88⑤…………このおとこは
[このおとこ━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・定嵯峨・根理家・大為氏・大阿波・大谷森・塗民局・非通具
 このおとこは━━武静嘉・武尊鎮・武永兼・武陽明・武雅親・根九家・根智蘊・根良経・根千葉・根文暦・根為相・根承久・定支子・非藤房
 このおとこに━━参為家
 (無し)━━非実践]

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《異同㈡》無し

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《異同㈢》
A.九大為家筆本P130②………かたわにしつゝ
 学習院大蔵本45丁表⑦……かたはにしつゝ
 静嘉堂文庫本P85⑥…………かたはにしつゝ
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B.九大為家筆本P131①………をんやうし
 学習院大蔵本45丁裏③……おむやうし
 静嘉堂文庫本P86②…………おむやうし
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C.九大為家筆本P131⑥………こひしうのみ
 学習院大蔵本45丁裏⑦……こひしくのみ
 静嘉堂文庫本P86⑥…………こひしくのみ
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D.九大為家筆本P133⑧………しほりたまふ
 学習院大蔵本46丁裏②……しおりたまふ
 静嘉堂文庫本P88①…………しおりたまふ

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河野美術館蔵三条西実隆筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2016/10/25/005910
宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/01/213105
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/26/104919
伝青蓮院尊鎮親王筆本第65段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/06/06/230025