伊勢物語翻字 by 片島諒

伊勢物語各種影印本の翻字を行います

①河野美術館蔵実隆筆本・第十六段《手をゝりてあひ見し事をかそふれは》

【河野美術館蔵実隆筆本】12丁表~13丁裏
⑨むかしきのありつねといふ人有けり三㔺の
⑩みかとにつかうまつりて時にあひけれと
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①のちは㔺かはり時うつりにけれは㔺のつね
②の人のこともあらす人からは心うつくしくあ
③てはかなることをこのみてこと人にもにす
④まつしくへても猶むかしよかりし時の心
⑤なからよのつねのこともしらすとしころあひ
⑥なれたるめやう\/とこはなれてつゐにあまに
⑦なりてあねのさきたちてなりたるところ
⑧へゆくをおとこまことにむつましきことこ
⑨そなかりけれいまはとゆくをいとあはれと思
⑩けれとまつしけれはするわさもなかりけり
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①おもひわひてねむころにあひかたらひける
②ともたちのもとにかう\/いまはとてまかる
③をなにこともいさゝかなることもえせてつか
④はすことゝかきておくに
⑤  手をゝりてあひ見し事をかそふれは
⑥  とおといひつゝよつはへにけり
⑦かのともたちこれを見ていとあはれと思ひ
⑧てよるの物まてをくりてよめる
⑨  年たにもとおとてよつはへにけるを
⑩  いくたひきみをたのみきぬらん
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①かくいひやりたりけれは
②  これやこのあまのは衣むへしこそ
③  きみかみけしとたてまつりけれ
④よろこひにたへて又
⑤  秋やくるつゆやまかふとおもふまて
⑥  あるは涙のふるにそ有ける

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学習院大学蔵伝定家筆本】15丁表~16丁裏
①むかしきのありつねといふ人有けり
②三㔺のみかとにつかうまつりて時に
③あひけれとのちは㔺かはり時うつり
④にけれは㔺のつねの人のこともあらす
⑤人からは心うつくしくあてはかなる
⑥ことをこのみてこと人にもにす
⑦まつしくへても猶むかしよかりし
⑧時の心なからよのつねのこともしらす
⑨としころあひなれたるめやう\/
⑩とこはなれてつゐにあまに
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①なりてあねのさきたちてなりたる
②ところへゆくをおとこまことにむつ
③ましきことこそなかりけれいまはと
④ゆくをいとあはれと思けれとまつし
⑤けれはするわさもなかりけり
⑥おもひわひてねむころにあひかたら
⑦ひけるともたちのもとにかう\/いま
⑧はとてまかるをなにこともいさゝか
⑨なることもえせてつかはすことゝ
⑩かきておくに
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①  手をゝりてあひ見し事をかそふれは
②  とおといひつゝよつはへにけり
③かのともたちこれを見ていとあは
④れと思ひてよるの物まてをくりてよめる
⑤  年たにもとおとてよつはへにけるを
⑥  いくたひきみをたのみきぬらん
⑦かくいひやりたりけれは
⑧  これやこのあまのは衣むへしこそ
⑨  きみかみけしとたてまつりけれ
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①よろこひにたへて又
②  秋やくるつゆやまかふとおもふまて
③  あるは淚のふるにそ有ける

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静嘉堂文庫本】P25~28
紀有常従四位下雅楽頭 經兵衞尉蔵人左近將監馬助兵衞佐左少將少納言
刑部大輔 自承和至于元慶 正四位下名虎男
④むかしきのありつねといふ人ありけり三よのみかと
⑤につかうまつりて時にあひけれとのちは㔺かはり
⑥時うつりにけれは㔺のつねの人のこともあらす
⑦人からは心うつくしうあてはかなることをこの
   ✼[イ無]
⑧みてことに人にもにすまつしくへても猶昔
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①よかりし時の心なから㔺のつねのこともしらす
②としころあひなれたるめやう\/とこはなれて
③つゐにあまになりてあねのさきたちてなり
④たるところへゆくをおとこまことにむつまし
⑤き事こそなかりけれいまはとゆくをいとあは
⑥れと思けれとまつしけれはするわさもなかり
⑦けりおもひわひてねむころにあひかたらひ
⑧けるともたちのもとにかう\/いまはとて
⑨まかるをなにこともいさゝかなることもえ
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①せてつかはすことゝかきておくに
②  手をゝりてあひ見しことをかそふれは
③  とおといひつゝよつはへにけり
④かのともたちこれを見ていとあはれとおもひて
⑤よるのものまてをくりてよめる
⑥  年たにもとおとてよつはへにけるを
⑦  いくたひきみをたのみきぬらむ
⑧かくいひやりたりけれは
⑨  これやこのあまのは衣むへしこそ
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①  きみかみけしとたてまつりけれ
②よろこひにたへて又
③  秋やくるつゆやまかふとおもふまて
④  あるはなみたのふるにそありける

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《異同㈠》
A.河野美術館本12丁裏③……こと人にもにす
 学習院大蔵本15丁表⑥……こと人にもにす
             ✼[イ無] 
 静嘉堂文庫本P25⑦…………ことに人にもにす
[こと人にも━━天学習・天河野・天冷泉・天細川・根為相・根理家・大為氏・大谷森・大阿波・塗民局・参為家・非通具・非藤房
 ことに人にも━━武静嘉・武尊鎮・根智蘊・根承久・根九家・根良経・根千葉・根文暦・定嵯峨]
静嘉堂文庫本のこの校異の書込みは山田清市氏の翻刻本(古典文庫229)によって補ったが朱書きとのことで影印本では確認できない。

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《異同㈡》無し

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《異同㈢》
A.河野美術館本12丁裏②……心うつくしく
 学習院大蔵本15丁表⑤……心うつくしく
 静嘉堂文庫本P25⑦…………心うつくしう

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宮内庁書陵部蔵冷泉為和筆本第16段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/03/27/232824
九州大学図書館蔵伝三条西実隆筆細川文庫本第16段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/04/20/000931
伝青蓮院尊鎮親王筆本第16段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/05/10/214822
九州大学図書館蔵伝藤原為家筆細川文庫本第16段
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.com/entry/2017/08/22/214545